ひとり出版社 仙波書房さんは企画・編集・営業・管理業務など、独りで行っており、川越の近代建築をわかりやすく紹介する建物本『川越の建物 近代建築編』などを発売されています。丁寧な本づくりと販売を心がけて仕事をされています。
仙波書房をつくろうと思った経緯にはどのような理由があるのでしょうか?
神谷>出版社で長く働き、そのうちの一社で、出版に関する基礎的な部分を広く学んできました。
当時の社長からは「出版に関する様々な業務を一通り覚えなさい」と言われ、膨大な業務量を不貞腐れずにひとりこなしていました。
営業代表として、担当である営業部門の業務に加え、出版社における売上・在庫・経費などの計数管理や、マネジメントといった経営者として必要な知識も学ばせていただきました。
また、自社内で理工書の発行を手掛ける新たな出版社の立ち上げがありました。
この準備と、関係会社との調整を行っていた経験などは、出版社起業の際に役立っています。
その後、グループ会社総代表が亡くなり、会社存続が厳しくなりました。
結果、法人が変わり、出版社出身でない新しい管理者の方とはこれまで培ってきた出版に対する考え方や方向性が全く合わず、別の出版社へ転職しています。
別の出版社においても以前と同じく営業代表を務め、営業部だけではなく、総務、経理部門の長を兼任し、出版に関する幅広い業務を行っていました。
仕事にも勢いがあり、仕事が楽しくなっている中、父が亡くなりました。
がんで思った以上に早く亡くなり、老後になってから好きなことを始めたのでは遅いのかもしれない、ということにも気付かされました。
そして、起業準備を行い、2021年の1月に「仙波書房」を起業、5月末に『川越の建物 近代建築編』を発行しています。
これまで学んできた出版に関する様々な業務知識は基礎となり、それをこなす能力と、足りない部分はそれまで培ってきた業界の仲間の協力と、更なる勉強で補い、現在に至ります。
『川越の建物 近代建築編』魅力はなんでしょうか?
神谷>建物本は読者層が限定されるため、層を拡大する工夫を検討しました。
その工夫のひとつで、最大の魅力でもあるのが、アニメーション制作会社による建物のイラストです。
一般的に写真、水彩画、ペン画などで建物を紹介する本が多い中、アニメーション制作会社にイラストを依頼しての建物本商品化はおそらく業界初と思われます。
川越を舞台にしたアニメーション作品『月がきれい』内での映像美に感動し、制作元であるアニメーション制作会社feel.(フィール)に企画相談したことに起因します。
アニメーション制作会社feel.(フィール)の協力で、老舗背景制作会社プロダクションアイによる建物イラストを用意することができました。
建物イラストの描写は光、タッチ、空気感と、建物の魅力を引き出し、建物への興味を促すことと、建物が現実よりも見えやすくなります。
とても素敵なイラストは本書掲載だけではなく、市内のスーパー、書店でイラスト原画を展示するイベントも昨年開催しています。
仙波書房ではどのような本を発行しているのでしょうか?
神谷>小江戸・川越に存在する近代建築 21 箇所を写真、イラスト、文書で分かりやすく紹介した『川越の建物 近代建築編』を発行しています。
建物の概要、歴史、特徴などの説明を読むことで、建物について興味が増し、街歩きがより楽しくなる、そんな1冊を用意しました。
その他、川越市内の蔵造りを紹介する建物本『川越の建物 蔵造り編』(2022年 夏発行予定)と、川越市内を様々な時代の古地図で名所を巡る『川越の古地図 歴訪散策編』(2022年 冬発行予定)を制作中です。
本当は年間3冊ほど本を発行していきたいなと思っているのですが、川越という素晴らしい歴史ある街なので、じっくり調べていくとなると、時間を要します。
また、ひとり出版社ということもあり、労働力も限られているため、ただ出版点数を増加させるよりも、1冊を丁寧につくっていきたいと考えております。
仙波書房の特徴としては今後どのような本をつくっていきたいとお考えでしょうか?
神谷>仙波書房の得意技としては、「難しい内容をより分かりやすく」することです。
なので、その強みを生かしながら世の中に価値のある本を提供できれば、と考えます。
今後私が手掛けたい本としては2つあります。
1つは川越の魅力を発信していく本を考えています。
川越市仙波町出身であることから、「仙波書房」という屋号にしました。
出身地「川越」の魅力を中からではなく、少し離れた外の視点から見て調べた内容を分かりやすく提供し、本を媒体に川越の魅力を多くの方に伝えていきたいと思います。
そして、もう1つは医療系の方に向けた本を考えています。
以前、医療系の学生向け参考書・問題集を発行する出版社で働いていたこともあり、多くの学校を訪問し、先生、学生の方々と語る機会がありました。
その中で、従来本ではサポートが難しく、新たな本が必要と現場の声を聴いております。
現場の声に応えられる本を提供できれば、と思います。
仙波書房を運営されていく中で大事にしていきたいことはございますか?
神谷>「難しいことを、やさしく記すこと、そして文字を少なく、分かりやすくすること」を大事にしています。
それと、業界的にいうと、ページが黒くならないようにする。
つまり余白を大切にしています。
それらを実現するためには、自分が書こうとしている中身を理解して、不要な箇所を大胆に削るような方法が必要です。
そこが本をつくる面白さでもあり、難しさでもあります。
川越の街の魅力について教えてください。
神谷>明治時代に起きた川越大火後に建てられた「蔵造り」が「一番街」に多く存在します。
その近くの「大正浪漫夢通り」や、「中央通り」周辺には、大正から昭和初期の時代に建てられた看板建築や、西洋的な造りの建物である「近代建築」が多く存在します。
つまり、川越は「蔵造り」、「近代建築」と、明治、大正、昭和、各時代の建物が狭いエリアに混在しています。
全国的にも同じような街は少なく、川越ならではの魅力と思います。
住所 | 〒350-1304 埼玉県狭山市狭山台2丁目17−28 |
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電話番号 | 04-2968-8195 |
公式HP | https://www.semba-shobo.com/ |