1979年の設立当時からの基幹業務であるメンテナンス事業を通じ、世界のハイクラスオーディオを見ながらも、理想のアンプをつくりあげることを目指し、透明度の高い美しい音、入力信号をそのまま伝えるナチュラルな音、そしてなにより上品で上質な音を奏でるオリジナル製品を作りへも挑戦を続けています。
最初に川越とのつながりをお聞かせください。
黒澤:もともと会社を始めたのは神田の淡路町です。出身は群馬で、大学浪人で東京に出てきて、ずっとこっちに住んでいます。
埼玉県の志木に来たのがもう50年くらい前で、その後川越に移って40年になります。
元々オーディオが好きで、若い時からずっと音楽を楽しんでいました。あるきっかけで大学をやめることになり、仕事としてオーディオをやろうということで、秋葉原のオーディオショップに丁稚奉公で入って、5年間働きました。
その時に思ったのが、オーディオ機器は国内、海外、安いものから高いものまで色々あって、それをトータルにサポートできる体制がなくて困るということでした。
特に国内メーカーは家電屋さんが修理対応していますけれど、海外製品は、国内のエージェントは商社でしかないので、サポート体制が非常に弱かったんです。
僕が海外製品の機械を良く使っていたところ、日本の気候風土に合わないための不具合が結構あったんです。ヨーロッパやアメリカは乾燥していますから、錆びることはあまりない。ところが日本は高温多湿で、接点の汚れや錆びという不具合が色々ありました。
これを輸入商社に何度も持ってくわけです。すると、その部分は直してくれるけどまた他がおかしくなるということが続いたので、自分が独立するときにはトータルで対応できるようにしたい。全体を見渡してコンプリートな修理、オーディオ全体のコンサルティングをしたいということでテクニカルブレーンという会社を立ち上げました。
会社として大切にしていることは何ですか?
黒澤:やっぱり信用ですね。人と人との関係性。信用できるかできないかは、僕らがどこまで真摯にオーディオと付き合うか。お客様の期待を裏切らないようにするか。これはどんな分野でも同じだと思います。
それとともに、この空間を維持すること。このために多くの財産をつぎ込んでいます。
最近、インターネットが盛んになり、誰もが宣伝、発信ができるようになりました。その結果、間違いであることもかなり流布されてしまっています。しかもそれはテレビ文化と相通じていて、極端なことを言わないと受けてくれない。一つの現象に対して語るときに、
逡巡しながら語っていては評価されないわけです。決めつけて、潰すか持ち上げるかしないと評価されない。このような風潮が広がってしまっているので、実態とかなり乖離した状態だと思っています。
僕はやっぱり手探りでも実感できるものを作りたい、楽しみたいと思うので、この趣味の世界は一番面白いんです。色々な人が同じ音楽を聴いても、好みや方向性によって楽しみ方が変わる。これが多様性です。そういったものに触れた時、こういう見方もあるなと感じることができるのも、こういく空間があればこそなんです。
自分の部屋でケーブルを取り換えて、違いだけを気にするようでは音楽を楽しめないんです。他の人が持ってきた、自分が聴いたことのないソースを聴いてみて、こんな音楽もあったんだという出会いをできる場所としてこれからさらに発展させたいなと思うんです。
仕事をされていて、喜びを感じる瞬間はどのような瞬間ですか?
黒澤:エンジニアとしてはトラブルが解決できた時ですね。原因を発見し、その発見したことを修理して、お客様にお返ししてお客さんがびっくりしてくれることです。原因の修理だけではなく、リフレッシュされてより良くなったことにお客さんが喜んでくれる。それが原動力ですね。
テクニカルブレーンは仕事が遅い、修理代が高い、要望を聞いてくれないと、実は一般的によく言われています。しかし、誰でもそうだと思いますけれど、自分がやった行為が他人に認められて、評価されることが一番うれしいです。自己満足ではなく。おかげ様でうちが出した商品全てが、雑誌などで最高評価であるグランプリをいただいています。これらアンプ群は全て世界で唯一の動作方法なんです。
専門的な話ですけれど、車で言えばエンジンの開発と同じです。安定性を考えれば回転数やトルクを求める必要がない。ところが運転を楽しむ人には、トルクが高く、回転数も12,000くらいまですぐに上がってくれるものがあれば、非常にキビキビとした気持ちの良い運転ができる。
アンプもそれと同じで、電流供給、スピーカーを動かす力があり、細やかな変化を表現できるものが良いのですけれど、それを実現するためには手枷足枷となる要素を削らないといけない。ダンプですね。ところがダンプをしてしまうと細かい毛羽立ちも抑えられてしまう。そういった抑圧因子をなくすことがが中々できませんでした。
そこにメスを入れたのがうちの製品なので、やや図々しいですが評価されて当然なのです。他のメーカーが追随できない部分です。
部品の選別などで中々苦しくて、量は多く作れないです。例えばこのケースだけでも20万円してしまいます。普通は1万円くらいで作ってしまうのでしょうけれど、うちのは1ロット10台くらいの量なので、こういう豪華なケースになってしまい、試作段階で
かなりのコストになります。それでも買ってくれた方と関係性を保っていることが1番嬉しいですよね。オーディオショップを始めた時から考えるとかれこれ50年近くですから。
うちはお客様が納得の上で修理をし、完璧な状態で返したいというスタンスで、そこだけは崩したくない。そこが信頼性ですね。
お客様の中には、早く安く上がれば良いという人もいます。このスイッチだけ変えてほしいというような。そういうお客様には、それはできませんとお断りしないといけないこともあります。
自分の好きなものを直すためにより良い関係性を築けるお客様でしたら大丈夫です。
これからさらに伸ばしていきたいことはどこでしょうか。
黒澤:もう歳なのが問題なので、後継者を探さないといけませんね。若い人を育てたいですね。今のビジネスモデルで考えると、色々なことを考えないといけない。大量に生産、大量に消費させる方法しか儲からないですが、それよりもこういう小さな個人商店で、必要十分な良い仕事を続けることができる社会にしたいです。
そうすればもっと深い関係性を築けます。中々難しいですが。
「趣味が仕事で良いですね。」とよく言われますが、逆に言うと割り切りができないので厳しいですよ。信条に反する仕事はしたくないし、無理がかかります。
商品の特徴、強みを教えて下さい。
黒澤:世界で唯一の技術を使った商品であることですね。エミッタ抵抗レスという、必要悪であったものを除去すると点で特許を取っています。これによって音の出方が違い、細やかな音からダイナミックな音まで一気に動きます。これまではエミッタ抵抗が、電流が流れすぎるのを抑えるダンプになっていましたが、それを解き放てば、気持ちよくすっと動くんです。
だた、エミッタ抵抗がないと温度が上がるに連れて、どんどん電流が流れてしまう。つまり熱暴走ですけれど、これを抑える方法をシンプルに発明したのがこのアンプです。これがすべての始まりで、オーディオアンプで考えられてきた既成概念を一つずつ解放していきました。なくせるものはなくしていき、伸ばしたい部分は伸ばす。それまで妥協してやっていたものを、妥協ではなくて、できなかった原因と結果を整理してみて、ブレイクスルーできたということです。聴いたお客様は皆喜んでくれます。今はまだ高額ですが、今後手ごろな価格で出せるようにしていきたいです。大量生産に協力いただけるスポンサーさんを探しています。
年に1アイテムくらいは開発しているペースです。パワーアンプは今3世代目の商品です。年々バージョンアップしています。川越市のKOEDO E-PROで、私共の商品は賞をいただいています。私共のこのアンプは、アメリカで一番有名な雑誌でも、13年前くらいから「世界に残したい10のメーカー」に選んでもらっています。ディレクターにも気に入ってもらえた結果です。
世界でうちの商品を扱ってくれているのは6か国ほどあります。1度だけで終わってしまったところもありますが、コンスタントに売ってくれているところもあります。うちは今修理と、国内外のオーディオ機器の販売、自社製品の開発をやっていて、マンパワーが足りずに製造能力が追いつかないです。
最後に川越の好きなところ、街の魅力をお願いします。
黒澤:都心から近くて、そこそこ緑もあって、災害、水害にも強いので安心して暮らせる土地柄ですね。ただ埼玉県は全国でも医療体制が脆弱で、川越もしっかりした総合病院がありません。埼玉医大だけで。
観光だけではなくて、農業なども分散させた色々な活動が評価されるようになってほしいですね。観光地向けの業者だけが動いていて、地場のお店が減ってしまっている。地場のお店が、観光をベースに発展していければもっと良いですよね。
住所 | 埼玉県川越市笠幡215-2 |
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電話番号 | 049-234-1109 |
営業時間 | 9:30~18:30 月曜日・火曜日(祝祭日は営業、翌日以降休み) |
アクセス | ○JR川越線 的場駅下車 徒歩18分 ○川越シャトル 11系統 イーグルバス川越営業所バス停下車 徒歩0分 ○JR川越駅西口発かすみ野行 霞ヶ関小学校バス停下車 徒歩3分 ○東武バス 東武東上線鶴ヶ島駅西口発サイボクハム行 霞ヶ関中学校バス停下車 徒歩5分 |